持続可能な社会を次の世代へ~変化は、あなたの暮らしの一歩から~ 11月9日、加地芳子氏の講演会に行ってきました。

2019/11/09

あなたは何から始めますか?

気候変動・環境破壊や貧困の問題など、持続可能な社会を脅かす地球規模での多くの困難な課題に直面しているなか、これらの課題を解決するために、毎日の暮らしの中で、私たち一人ひとりにできることは何かを一緒に考えていこうと開催された佐保会大阪支部主催の「暮らしを考える講演会」に出席しました。
講演会は、SDGsなどにも触れながら、次の世代に持続可能な社会を引き継ぐため、あなたは何から始めますか?、との問いから始まりました。講師は、京都教育大学名誉教授の加地芳子さん。大学の20年先輩で、佐保会大阪支部の新会長です。

キーワードは「環境」、そして「人権」「平和」

若い人たちから「ここまで追い詰めた大人世代は何を考えているのか」との厳しい意見も受けている。そんな若者の代表としてグレタさんは「若者の声を聞くのではなく、科学の声を聞いてください」と語り、科学的根拠に基づく行動を、と訴えており、まさに私たちから「次の世代へ」ということが問われていると感じていると。そして、いま、世界中で共有していると思われる課題を一つひとつ取り上げ、「私たちは自分ごととして捉えることができていますか」と問われました。

年平均気温の上昇や降水量の変化といった世界の異常気象、地球温暖化の影響、海洋プラスチックごみの国外流出量の増大などプラスチックごみのトラブル、食品ロス量が食品廃棄物の2割を超えるなど生ごみのトラブル、ごみをめぐるさまざまな課題…。

ジェームス・ラブロック博士(英・環境学者)は、「地球平均気温5℃上昇の世界」では、北極・南極以外の大陸の大部分は砂漠と化し、海洋の対流が弱まって養分や酸素の供給が途絶え、海の砂漠化も進むことにより、地球上の全生物の生存が脅かされる、との未来予測を行っておられるとのこと。平均気温が約4℃上昇すると、世界の海岸線52%に波の特徴変化が見られ、日本の海岸では波高が約1割減少し、生態系への影響は計り知れない等の研究報告もあり、 温度を上げないようにすることが人類にとっていかに大事なことであるか。地球温暖化の深刻な被害を避けるため、「京都議定書」、そして2020年に本格始動する「パリ協定」等、世界各国はCO₂排出量の削減に具体的目標も定めて取り組んできてはいるけれども、いまなお危機的な状況にあるとの説明がありました。

プラスチックごみについては、ウミガメの鼻に刺さったストローやプラごみを誤飲した赤ちゃんジュゴンの死、タイ・バンコクの運河やフィリピン・マニラの海に漂うプラスチックごみなど、センセーショナルなものが引き金になっているけれども、先生自身も隠岐の島の外海側の海岸に、日本以外の国の言語が書かれたプラスチックごみが浮遊している状況を見てきた、遠いところの話ではないとの報告もありました。

ごみをめぐるさまざまな課題は、ごみ減量が追い付かない生活ごみの増大、災害ごみ、最終処分地の確保、不法投棄、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニル、マイクロプラスチックなど拡散する化学物質、食物連鎖による生物濃縮(幼児期への影響)等々…。

誰一人取り残さない、持続可能な社会をめざして

そのような状況のもと、2015年9月の国連サミットで全会一致で採択されたのが、SDGs(Sustainable Development GOALS:持続可能な開発目標)で、「環境」のみならず、「人権」や「平和」も包摂して、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする世界を変えるための17の開発目標(その下に169のターゲット、232の指標)を設定した、と話はSDGsへと展開しました。

 

➣SDGs(Sustainable Development GOALS:持続可能な開発目標)
(※クリックするとPDFファイルが開きます。)

SDGsの特徴は、先進国を含めすべての国が行動するという「普遍性」、人間の安全保障の理念を反映し“誰一人取り残さない”という「包摂性」、すべてのステークホルダーが役割を担うという「参画型」、社会・経済・環境に統合的に取り組むという「統合性」、そして定期的にフォローアップするという「透明性」の5つ。

できることから、できる時に ~変化はあなたの一歩から~

気候変動阻止への努力やごみ量減量・ごみ処理への努力が求められるが、すべてのステークホルダーが役割を担う、すなわち、一人ひとりの力がとても大切であるとのことで、続いては、地域・社会運動としての取り組みの例、「食品ロス」への取り組みの例など、具体的な活動の事例を紹介いただきました。

点や線では無理、面での取り組みとして実践(住民の協力が必要)している徳島県上勝町では、ごみをゼロにするゼロウエイスト運動(Zero-ish Waste)として廃棄物の45分別回収を行い、全国平均20.2%のごみリサイクル率が79.7%であるという事例。エコバック利用率が9割であるという富山県の事例、容器持参で買い物に出かける、プラスチック代替品活用の取り組み等の紹介。
宴会等で乾杯後の30分、終わりの10分は着席して食べることに専念して「食品ロス」をなくそうという「3010運動」、製造日から賞味期限までの合計日数の3分の1を経過した日程までを納品可能な日とし、3分の2を経過した日程までを販売可能な日(販売期限)とする商慣習的の「3分の1ルール」の見直し、食べ残しの持ち帰りを文化にしよう、備蓄品などの非常食をアレンジすることのPR、「売れ残り格安」情報をアプリで提供しようとする取り組み等の紹介がありました。

ルールができても行動するのは一人ひとり。縦割りではなく柔軟な発想で、科学的根拠に基づいた意思決定と実践を、という行動提起や、かつてあった共同体意識を取り戻そうというお話。
そして、私たちは日々の暮らしの中から、買い物を通じて、世界が抱えている問題を解決に導く一端を担うことができる。それはとても身近なアクションなので、今日から、明日から、誰にでもできる社会への貢献である。それが人や社会・環境に配慮した「エシカル消費」であるというお話などをされ、「できることから,できる時に、ご一緒に前に進みましょう!」と締めくくられました。
いまを生きる世代として、次の世代によいいのちの状況をつないでいくため、持続可能な社会を引き継いでいくため、一歩でも前進するよう、一人ひとりの行動が問われているとの思いを強くしました。

 

さて、講師の加地芳子さんは、消費者教育・家庭科教育が専門で、何を教えればよいかではなく、どういう力を育てたいので、何を題材にするかという観点を大切にして教員養成に取り組まれてこられたとのこと。子どもたちに育てるべきは意思決定能力で、「意思決定のプロセス」と、生活者としての判断基準、現代に生きる消費者としてどうあるべきかという「価値観のおきかた」である、と話されていました。長年にわたり、学校教育における教材の開発や教員指導にも取り組むなど消費者教育推進に貢献されたとして、今年度、消費者支援功労者表彰(内閣府特命担当大臣表彰)を受けられたとの報告もありました。

^