5月25日、枚方市駅周辺再整備~未来に向けたまちづくりを考える~をテーマに、さまざまな立場の皆さんが登壇されました。「現在市民の合意より、将来市民の希望を」「たゆたえども沈まず」~武田重昭先生の講演には、学ぶことが多かったです。
枚方市議会議員の奥野みかです。
5月25日、「枚方市駅周辺再整備~未来に向けたまちづくりを考える~」をテーマに、伏見枚方市長のプレゼンテーション、続いて、大阪公立大学の武田重昭准教授の基調講演、その後、摂南大学の熊谷樹一郎教授をコーディネーターに、伏見市長、武田准教授を含む5人のパネラーの皆さんが登壇され、それぞれ異なる視点から意見発表される催しがありました。会場は総合文化芸術センターの大ホール。
総合文化芸術センター本館入口前の紫陽花(2023年5月25日撮影)
冒頭、まずは市長の挨拶。
現庁舎より200m移動させる「市役所の位置を変更する条例(移転条例)」は、昨年9月、特別多数議決で必要な2/3に届かず、否決となった。市民に十分な説明ができていなかったのではないかとの指摘もあり、可能な限り、市民説明に努めたい、と移転条例に言及(本日の催しで移転条例に触れられたのはここでのみでしたが…)。
そして、枚方市が選ばれるまちになるよう、人が主役の「ゆとり」と「賑わい」のまちをつくる、「住む人」「働く人」「学ぶ人」「訪ねる人」がわくわくするまちを枚方市駅周辺でめざしていく、と(住む者としては、帰ってきて「ホッとできる」駅であってほしいんだけどな、と思いましたが…)。
※「市民の利益にならない市庁舎移転。9月26日、特別多数議決を要する市役所の位置を定める条例の『否決』が意味することについて、説明を書いてみました」はこちらから。
■伏見市長のプレゼンテーションに関して気になること
さて、第1部、伏見市長のプレゼンテーション「枚方市駅周辺のまちづくりについて」は、「枚方市の歴史」に始まり、「枚方市の現状」、そして、「今めざすべきまちづくり」、その「枚方市駅周辺でめざすまちの方針」との流れでした。市職員による枚方市駅周辺再整備基本計画の説明を聞いているような印象でしたが、次の2点について気になりました。
枚方市駅周辺再整備基本計画の改訂(素案)より抜粋(枚方市HP_2023年4月21日公開分)
1つは、枚方市駅の南口駅前広場や交通のあり方について、「駅のすぐ前が緑の空間になるような歩行者優先のまちづくりをする」というものです。
市の資料を引用してもわかりにくいのですが…、駅前広場が駅舎と接していないイメージ図であるかのように思います。
この考え方は、一般的なビジョンとしてはあり得ますが、枚方市駅周辺の交通問題は、非常に解消困難な複合的なものであるため、このビジョンは簡単なものではないと思います。
なぜならば、国道1号と府道京都守口線の間をダイレクトに結ぶ東西の道路基盤が弱いため、枚方市駅周辺に通過車両が流入して交通渋滞を発生させている状況が深刻だからです。また、枚方市駅南北の駅前広場は狭隘で、バスやタクシーの運行、あるいは駅へ来る一般車両に大きな支障をもたらしています。③街区における市街地再開発事業において、北口駅前広場整備と、一部の周辺道路整備が行われますが、枚方市駅周辺の交通問題を解消できるものではありません。
そのような現実の下で、「歩行者優先の街」というビジョンを掲げて南口駅前広場の形状を抜本的に見直そうとすれば、②街区や④街区の再整備にとどまらない枚方市駅周辺の道路網の再整備という課題が顕在化します。南口駅前広場の整備を新しいビジョンに基づいて行うという方針を市が示すのであれば、その実現可能性を担保するための全体的なビジョンを同時に示す必要があるのではないでしょうか。
2つめは、さも確かな数値のように持ち出された「③、④⑤街区の再整備による経済波及効果」なるものです。
枚方市における10年間における総効果が4千数百億円だとか、1年あたりで言うとオリックスの優勝の経済効果よりも大きいとか、まるでワイドショーのコメンテーターのような話しぶりでした。しかし、この経済波及効果なるものが、どのような前提や仮定で推計されているのか全く「謎」なのです。
④街区の複合施設なるものは、民間提案によって決定するもので、どのような建築物が建設されるのかまだ不明です。
⑤街区とされている枚方市の新庁舎についても、まだ構想レベルです。
従って、経済波及効果が比較的予測しやすいと言われている建築・投資についても、前提条件が不確かです。ましてや、消費支出にいたっては、推計の前提となる施設が、どのような業態や規模のものなのか、④⑤街区については全く不明です。検討中(?)とされている5,000人規模のアリーナまでも、推計の前提となるコンテンツに含まれているとしたら、それはそれでとんでもないことです。
枚方市駅周辺再整備基本計画の改訂(素案)より抜粋(枚方市HP_2023年4月21日公開分)
枚方市駅周辺再整備基本計画の改訂(素案)/説明動画スライド資料より抜粋(枚方市HP_2023年4月21日公開分)
そもそも「経済波及効果」とは、一定の仮定値計算で新規分の経済効果を積み重ねるものです。しかし、人々の実際の消費活動においては、どこかでお金を使えば、どこかで節約するのですから、すべてを増加要因とみるのは非現実的です。
また、「雇用創出効果」も疑問です。例えば、新しい商業施設で求人があり、誰かが雇用されたとしても、その人は大抵の場合、どこかを辞めてそこに就職するというのが実際でしょう。枚方市のような都市圏での新規雇用は「労働力移動」でしかないのです。
市長がプレゼンテーションにおいて、このような無意味で根拠のない数字を持ち出されることによって、枚方市周辺再整備事業の必要性や有用性に対する説得力は著しく低下し、市民の皆さんには「胡散臭く」感じさせてしまったのではないかと思っています。
枚方市駅周辺再整備基本計画の改訂(素案)より抜粋(枚方市HP_2023年4月21日公開分)
枚方市駅周辺再整備基本計画の改訂(素案)/説明動画スライド資料より抜粋(枚方市HP_2023年4月21日公開分)
枚方市駅周辺再整備基本計画の改訂(素案)より抜粋(枚方市HP_2023年4月21日公開分)
引き続き行われた大阪公立大学の武田重昭准教授の基調講演「公共空間から都市をプランニングする」には、学ぶことが多かったです。「現在市民の合意より、将来市民の希望を」という言葉が象徴的ですが、まずは市民の暮らしや生きざまと結びつけたまちづくりが大切で、だからこそ、市民の意見を聞いたり参加を促すことがとても重要。「たゆたえども沈まない」目標を掲げて、今日より明日をの思いで(スパイラルアップ)、目の前から一人ひとりが持続可能なまちづくりを重ねること。「賑わい至上主義」ではなく、まちへの愛着やシビックプライド、当事者意識に基づく自負心を持てる、そんな人材の育成が重要なこと等が語られたと思います。取り急ぎ、以下、メモしてきた言葉を記します。追って、まとめて報告させていただきます。
まずは市民の暮らしや都市全体にとっての景観の意味や役割をしっかりとらえることからまちづくりは始めないといけない。
「賑わい至上主義」はいけない。
過剰に盛り上げないこと。今日より明日を。着実によくなりつづけること。
都市と人とのコミュニケーションをデザインする。プランニングマインドを。
まちの使いこなしを支える人たち。市民の方が市民にPRする。
「スパイラルアップ」=徐々によくなる、例えば、「市民が育て続ける公園」など、そんな理念・目標設定を。
盛り上げること(地域をよく見せる過剰な広報)より、まちの持続性(まちのベクトルを上向きに保つ)を。
10,000人の1回(大規模行事としてのイベント)より、100人の100回(日常的な出来事としてのイベント)を。
リーダーシップ(先頭に立ってチームを引っ張る)より、フォロワーシップ(チーム全体のパフォーマンスを向上する)を。
強いリーダーシップより、弱いネットワークが、強いマネジメントを生む。
シビックプライドとは、市民が都市に対して持つ誇りや愛着のこと。まちや地域を自分のこととして感じられるかどうか。自分はこの都市を構成する一員であり、都市をより良い場所にするために関わっているという意識。当事者意識に基づく自負心。
柳田国男「村は住む人のほんの僅かな気持から、美しくもまづくもなるものだ」
ルイス・カーン「都市とは、その通りを歩いているひとりの少年が、彼がいつの日かなりたいと思うものを感じ取れる場所でなくてはならない」
こんなモノがあったらいいなより、こんなコトをやってみたいな。
人は人が集まってくるところに集まってくる。パブリックライフ。
美しい景観も、まちが賑わうことも手段であり、目的は、市民の都市生活がどう豊かになるのか、都市の持続性がいかに高まるのかということ。
「現在市民の合意より、将来市民の希望を」
たゆたえども沈まない、そんな目標物(ビジョン)の設定を。
「たゆたえども沈まず」(→パリ市の紋章にはラテン語で “Fluctuat nec mergitur”と書かれているとのこと。意味は「揺れはするが、沈まない」ということ。)