中高年のひきこもりへの対応 ~孤立してしまわないようSOSに気づき、つなぎ、寄り添いながらの支援を~

2019/11/13

ひきこもり状態にある当事者や家族を行政はどう支えていくか。
特に、増えてきている40代以上の当事者への向き合い方は、就労経験や意欲などの違いによって変わってくる。若者を主な対象にした従来の施策からの転換も求められ、問題が複雑化する中で行政は模索を続けている。

10月27日、中高年のひきこもりを取り上げた朝日新聞の記事に、中央大の宮本太郎教授の指摘が掲載されていました。「相談を受ける窓口はどこでもいい。大切なのは役所の各担当者がしっかり連携し、当事者の実情に応じた支援が提供されるような枠組みだ」と。ひきこもり状態に至るまでには、生活困窮や精神疾患など複雑な要素が絡み合っていて、従来型の縦割り行政では対応しきれず、精神保健福祉センター、保健所、社会福祉協議会、医療機関、ハローワーク、家族会など、さまざまな関係機関の連携が必要となってくるとも記載されていました。

私は6月の議会で「8050問題への対応について」の質問の中で次のような要望を行いました。

「中高年のひきこもりの場合、ご本人はさまざまな経過の中で深く傷つき、自己肯定ができずにおられると思われるし、ご家族は、家族の問題は家族で解決すべきだと思われていることが多いので、まず、相談窓口にお越しになること自体が難しい。そして、ご本人には、働いていないことを責められたり、働くことを求められたりするのではないかという強い不安があると思われる。ご相談につながりにくいこの2つの「壁」を超えるためには、地域福祉や保健事業の展開の中で、あるいは親世代の介護などをきっかけにして、さまざまな関係者が連携して、まずご家族・ご本人との関わりを持つことが最も重要だと思う。そして、その後も、関係部署がしっかりと連携して息長く寄り添いながら、抱えておられる課題を一つひとつ解決していくための取り組みを進めていくこと、孤立してしまわないようSOSに気づき、つなぎ、寄り添いながら支える、こうした地道で時間がかかるけれども、最も大切な取り組みの充実を求める。」

どの相談機関、その相談窓口からでもいいので、まずは当事者のSOSにつながり、当事者の実情に応じた支援が亭個湯されるよう、関係機関の連携を図り、寄り添いながら支えていく。そんな枠組みが構築されるよう、これからも求めていきたいと思っています。

 


(※以下、朝日デジタル記事より引用 川口敦子、江口悟、北上田剛  2019年10月27日)

 

 

増える中年ひきこもり 複雑化で行政も苦心「出口が…」

ひきこもり状態にある当事者や家族を行政はどう支えていくか。特に、40代以上の当事者への向き合い方は、就労経験や意欲などの違いによって変わってくる。若者を主な対象にした従来の施策からの転換も求められ、各地の自治体が模索を続けている。

都内のビルの一室。ひきこもりに関する相談を電話やメールで受ける都の「ひきこもり地域支援センター」がある。平日の午後、相談員が受けた80代の女性からの電話は、いじめをきっかけに数十年間ひきこもり状態が続く50代の息子についてで、女性は途方に暮れた様子だったという。

センターは、全国の都道府県・政令指定市が設けている。都の場合、運営をNPO法人「青少年自立援助センター」(東京都福生市)に委託。今年5月に川崎市で児童らを襲った男がひきこもり状態だったと判明した後、電話が鳴りっぱなしになったという。6月は新規の電話相談が前年同月の3倍(219件)だった。

青少年自立援助センターは、主に若者の自立支援で実績があるが、近年は中高年の支援にも力を注ぐ。センターが関わった40代の男性の場合、高校中退後からひきこもり状態だったが、センターのプログラムや職場実習、アルバイトなどを経て医療機関の介護補助の仕事に就いたという。河野久忠理事長は「40、50代の場合、就労経験が全くないか、途切れ途切れでもあるかでアプローチが変わる。自分より若い支援者に指示されたくないといった心情にも配慮します」と話す。

朝日新聞が、ひきこもり状態の人への支援について67都道府県・政令指定市に実施したアンケートでは、40歳以上の支援について、「ブランクから就労をあきらめている」「支援が途切れてしまう場合がある」などの声が自治体の担当者から寄せられた。

関東地方の自治体の相談員を務める男性が最近経験したのは、仕事でつまずいた後、十数年ひきこもり状態が続く50代前半の男性への就労支援だ。80代の親の要請で訪問を始め、本人と話すまでに1年。さらに訪問を1年続けて就労意欲を確認した。昨年、ある企業での事務職を提案したが、本人が行きたがらず、次の策が見えないままだ。

相談員は「選択肢を多く用意して、その人に合うものが見つかるようにしたい。このままだと相談を受けても出口が十分に示せないままの人が増えてしまう」と危機感を語った。

「ひきこもり」高齢化、支援の年齢制限が壁に

ひきこもりは、社会問題として認知された1980~90年代、若者の不登校との関係で注目された。厚生省(当時)が91年度に始めた「ひきこもり・不登校児童福祉対策モデル事業」で支援したのは18歳未満だった。

90年代半ばから2000年代半ばまでの就職氷河期を経て、背景が就労のつまずきなど複雑になり、中高年でひきこもり始める人も目立ってきた。だが、国の事業は若者限定が多く、06年度から続く就労支援の「地域若者サポートステーション」の利用対象も30代までを基本としてきた。

国が、年齢制限のない「ひきこもり対策推進事業」に乗り出したのは09年度。都道府県・政令指定市が設置する「ひきこもり地域支援センター」はその中核で、2千万円を基本とする運営費の半額を国が各自治体に補助する。センターは、相談から適切な関係機関につなぐ役割を担う。

ただ、自治体によっては最近まで一部の支援で年齢制限を残していた。東京都の場合、今年5月までセンターを通じた訪問相談に「おおむね34歳まで」の上限があった。ひきこもり対策の所管も今春、若者・青少年施策の部署から福祉保健局に移したばかりだ。

さらに、国は、市区町村が主体の「ひきこもりサポーター派遣事業」への補助を13年度に創設。情報発信や居場所の提供なども含めた「ひきこもりサポート事業」に発展させ、補助を続けている。また、15年度施行の生活困窮者自立支援法に基づく就労準備支援なども、ひきこもり対策と連動させて進めている。

ひきこもり、家族も孤立? 自治体が悩む「実態の把握」

長くひきこもり状態にある人やその家族への支援について、自治体はどんな課題を抱えているのか。朝日新聞は、全国の都道府県と政令指定市(計67自治体)を対象にアンケートを実施した。結果から見えてきたのは、優先して取り組むべき施策と位置づけながら、当事者の状況の把握や継続した支援の難しさに直面している実情だった。

朝日新聞は47都道府県と20政令指定市に、ひきこもり状態の住民に関する実態把握や支援策について聞くアンケートを実施し、全67自治体から回答を得た。

都道府県と政令指定市は国の補助を受け、「ひきこもり地域支援センター」を設置、運営している。センターは、当事者や家族の相談を受け、市町村の福祉窓口や医療機関、就労支援団体などの適切な支援先につなぐ役割を担う。自治体によっては運営を民間に委託している場合もある。

回答を集計すると、67自治体のセンターが18年度中に当事者や家族から相談を受け付けたのは計9万8127件で、当事者の実数は計1万2315人。年齢別では39歳以下が8893人、40歳以上が2368人、年齢不明が1054人と、39歳以下が40歳以上の4倍近かった。

就労や医療など「具体的な支援」につながった当事者の数を自治体に聞いたところ、42自治体から回答があった。これを集計すると、当事者(9069人)のうち22.1%が具体的な支援につながっていた。

この42自治体のうち36自治体は年齢別に集計しており、39歳以下で支援につながったのが24.1%だったのに対し、40歳以上では19.4%と4.7ポイント低かった。

当事者の数を回答しなかった自治体の多くは「外部の支援機関に連絡した後の状況を把握できていない」などと説明した。

アンケートでは、ひきこもりの長期化・高年齢化などをめぐり、各自治体が対策や支援を実施する上で課題と捉えていることについても九つの選択肢(複数回答)で聞いた。

67自治体のうち、最多の56自治体が選んだのは「当事者・家族の実態把握が困難」。次いで「どんな支援を求めているかの把握が困難」「当事者・家族への継続したアプローチが困難」をそれぞれ32自治体が選び、「コミュニケーションや信頼関係の構築が困難」も31自治体が選んだ。

このほか、「支援経験やスキルを有した職員が少なく育成も困難」が23自治体、「他部署や関係機関との連携が困難」が22自治体など。

一方、「他の業務との兼ね合いで人員や予算を優先して割けない」を選んだ自治体は10にとどまり、多くの自治体には、優先的に取り組む課題だとの認識がある状況も浮かんだ。

40歳以上の当事者への支援と若年層への支援の違いや、40歳以上の当事者を支援する上で工夫している点についても自由記述で各自治体に聞き、次のような回答があった。

「長期化している場合、当事者だけでなく家族も孤立していることが多いので、家族への支援も大切にしている」(香川県)
「中高年の方の場合、最終的に就労を目指すことが難しい場合もあり、こうした場合、親亡き後の生活をどうしていくかなどを支援目標とする」(愛知県)
「長い期間社会経験がないことが多いため、就労支援などにつなげる前段階で、安心して社会経験が積める場所へつなぐ、継続的な相談を続けることを意識している」(熊本市)
親も高齢になって相談のための来所が難しい状況を想定し、家庭への訪問支援や近隣での出張相談といった取り組みに力を入れているという回答も目立った。


■67都道府県・政令指定市に聞いた「対策や支援を実施するうえで課題と捉えていることは?」
(選択式・複数回答可、数字は選んだ自治体の数)
56 当事者・家族の実態把握が困難
32 どんな支援を求めているかの把握が困難
32 継続したアプローチが困難
31 コミュニケーションや信頼関係の構築が困難
23 経験やスキルを有した職員が少なく、育成も困難
22 他部署や関係機関との連係が困難
17 支援を断られることが多い
10 人員や予算を優先して割けない
15 その他

自治体にとっての主な課題(自由記述、抜粋)
●家族へのアプローチは継続できても当事者の支援につながりづらい(愛知県)
●大幅な改善が見込みにくいケースについては、ゴール設定が難しい(京都府)
●支援人材の確保・養成が課題(大阪府)
●家族がひきこもりを隠そうとする傾向があり相談につながりにくい(岡山市)
●家族の介護・福祉サービスの導入を当事者が拒否する問題がみられる(北九州市)
●ケースに応じて支援をコーディネートする必要がある(大分県)



ひきこもり、40代が最多 支援先は若年層が中心

ひきこもり状態の人は40代が最多だが、支援を受けているのは20~30代が多い…。ひきこもりに関する実態調査をした都道府県・政令指定市への取材で、こんな構図が浮かんだ。40代以上の当事者をいかに支援につなげるかが課題になっている。

朝日新聞が47都道府県と20政令指定市にアンケート。32自治体が実態調査をしたことが「ある」と答えた(集計中を除く)。ほとんどの自治体が、仕事や学校に行かず家族以外とほぼ交流しない状態が6カ月以上続く人を当事者としていた。

このうち17自治体は、民生委員などが地域で把握している当事者の数をまとめる形式で2013~19年に調査。詳細を取材に明らかにした16自治体のうち、14自治体で40代が最多だった。14自治体は札幌市、長野県、大阪府、島根県、大分県などで、その多くはHP上で公開している。

また、16自治体すべてで40代以上の割合が30代以下より多く、今年2月現在で調査した長野県では年齢不明者を除いた当事者2237人の63.1%が40代以上だった。

民生委員は、児童委員も兼ねる特別職公務員で、担当区域の住民の生活状態を把握して行政とのパイプ役を担っている。

一方、32自治体のうち神奈川県や三重県など6自治体は、自治体や民間団体が相談や支援で把握している当事者の状況を年代を問わず集計。ここでは20代か30代が最多で、30代以下の割合が40代以上より多かった。昨年11月~今年1月に調査した神奈川県の場合、年齢不明者を除いた当事者1989人の71.5%が30代以下だった。

その他の9自治体は、無作為抽出の住民アンケートなどを実施していた。

内閣府は15年度の調査で15~39歳のひきこもり状態の人は約54万人と推計。今年3月、別の調査で40~64歳の当事者が約61万人いるとの推計を公表した。

ひきこもりの問題を研究する宮崎大の境泉洋(もとひろ)准教授(臨床心理学)は「バブル崩壊後からの『就職氷河期』を20代で迎えた世代が今、40代にさしかかっている。若いうちは家族との緊張・対立が強まって相談に向かいやすいが、40代になると落ち着き、本人・家族とも、ひきこもって生きることを受け入れがちになる」と指摘する。

都道府県・政令指定市は、年齢を問わず相談を受けつける「ひきこもり地域支援センター」を設けているが、境准教授は「身近な市区町村レベルでも相談窓口を設けるべきだ」と提言する。

縦割り行政では対応困難、連携が課題に

各地のひきこもり地域支援センターでは「連携」が課題になっている。

スタッフ3人が電話・面接相談に対応する長野県のひきこもり支援センター(長野市)が重視するのは県内の市町村との連携。この人数ではきめ細かな支援は難しいとして、市町村の保健師らを対象に研修会を各地で開催。支援の課題などについて講義している。

北九州市は、支援に実績があったNPO法人「STEP・北九州」に委託。スタッフは、就労支援や医療、家族会などの関係者ら約40人と定期的に情報交換している。和田修センター長は「支援者同士が信頼できれば、相談に来た人のことを頼みやすいし、その後の状況も聞ける」と話す。

センターが置かれない市町村では、独自の担当課を置く動きもある。兵庫県明石市は7月、保健所内にひきこもり相談支援課を新設。7~8月の相談は約250件あった。弁護士資格を持つ青木志帆課長は「重層的な支援の枠組みを作りたい」。神奈川県大和市は10月、主に30歳以上が対象の相談窓口を設け、介護や生活困窮など複合的に対応できるようにした。

ひきこもり状態に至るまでには、生活困窮や精神疾患など複雑な要素が絡み合うことがある。このため精神保健福祉センターや保健所、社会福祉協議会、医療機関、ハローワーク、家族会などの連携が必要となり、従来型の縦割り行政では対応しきれない。

中央大の宮本太郎教授(福祉政策論)は「相談を受ける窓口はどこでもいい。大切なのは役所の各担当者がしっかり連携し、当事者の実情に応じた支援が提供されるような枠組みだ」と指摘する。

^