「はじめに結論ありき」の不合理な検討プロセスで策定された「枚方市駅周辺再整備基本計画」の問題点について、私なりに整理してみました。
枚方市議会議員の奥野みかです。
2021年3月に策定された「枚方市駅周辺再整備基本計画」では、「⑤街区」に市役所庁舎を移転建替えするということが「前提方針」として取り扱われており、昨年(2022年)9月の議会で、市は「④街区」から「⑤街区」に市役所の位置を変更する条例を提案しましたが、議会で否決されました(特別多数議決)。ところが、伏見市政は「前提方針」への固執を改めず、移転条例が否決されたことなど全くなかったかのような姿勢で、現在、基本計画の改訂作業まで進めていることから、市が示している「④街区」「⑤街区」の再整備計画に関する問題点を私なりに改めて整理してみました。
ここに整理させていただいた考えは、私一人のものではなく、たくさんの方々のご意見を集約して書いたものです。どうぞ、ご覧いただき、ご意見等がありましたら、お届けいただければ幸いです。
2023年5月15日
■はじめに
私は、「枚方市駅周辺再整備基本計画」の中で示される「④街区」(枚方市役所本館・別館、枚方市保健所、元枚方市民会館大ホール・本館[現市役所第3分館]等が所在する街区)、そして「⑤街区」(大阪府北河内府民センター、枚方市役所分館・第2分館、枚方税務署等が所在する街区)の再整備の方向性に大きな疑問を持っており、抜本的な見直しが必要だと考えています。
そして、市が「④街区」「⑤街区」再整備の方向性を見誤った根本的な理由は、大阪府による北河内府民センターの「③街区」移転という決定を受け、「その跡地となる『⑤街区』に枚方市役所を移転建替えする」ということを「前提方針」として計画の具体化を進めたことにあると見立てています。
「はじめに結論ありき」の不合理な検討プロセスで策定された再整備基本計画は、市が自ら整理したビジョン(「枚方市駅周辺再整備ビジョン」/2013年3月)とも整合せず、また移転によって生じる「④街区」の土地利用についても、市が掲げていた思惑から全くかけ離れたものとなっています。
しかし、何があっても「前提方針」への固執を改めず、それらしい体裁を整え、強引に事業を推進しようとする、~これが、伏見市政によるこの間の経過ではなかったでしょうか。
そこで、さまざまなご意見を踏まえ、市が示す「④街区」「⑤街区」の再整備計画に関する問題点について、改めて私なりに整理してみました。
■ビジョンの再確認
大きなまちづくりに取り組む際には、歴史的な経過や社会・経済状況を巨視的にとらえ、課題と方向性を的確に把握することが必要です。それが「構想(ビジョン)」と言われるもので、「計画(プラン)」はそれを具体化するものでなければなりません。
そこで、「枚方市駅周辺再整備ビジョン」を振り返ってみると、ビジョンでは枚方市駅周辺地域の再整備の必要性を次のように整理しています。(ビジョン要旨・抜粋)
■ 枚方市駅周辺地域は、昭和30年代の大阪府住宅供給公社枚方団地や市役所本館の建設からはじまり、市街地再開発事業による駅前整備等が行われ、平成7年の京阪本線連続立体交差事業の完成により、現在の都市基盤が形成された。この地域は、長い年月をかけ築き上げられてきた行政サービス機能、商業・業務機能等が集積する本市の中心市街地であり、鉄道や路線バスの乗降客数の多さからも府内有数の交通結節点として本市の中枢機能を担っている。また、この地域には淀川や枚方宿等の自然歴史資源や、大学の立地、集積する文化・医療施設、活発な市民活動等、魅力ある地域の資源が多く存在している。
■ しかし、これらの都市機能や地域資源が、必ずしもまちの賑わいや商業の活性化に活かされているとは言えず、駅周辺においては複数の大型商業施設が閉店したことも一因で、 商業施設全体の販売額も減少している。また、通過交通による駅前広場の交通混雑、周辺施設の老朽化等といった様々な問題も生じている。さらに、少子高齢化等の社会環境の変化や多様化する市民ニーズにも対応していく必要がある。これらの様々な課題やこれからの時代に対応したまちづくりを実現するために、この地域の特性を活かしつつ、本市の中心市街地として、魅力あふれる賑わいのあるまちの構築をめざす再整備が必要である。 |
■重要な「ゾーニング構想」の放棄
ビジョンでは、枚方市駅周辺再整備を必要とする大きな課題として、次の3つをあげています。
1つは、まちの賑わいや商業の活性化
2つめは、通過交通による駅前広場の交通混雑、周辺施設の老朽化等
3つめは、少子高齢化等の社会環境の変化や多様化する市民ニーズへの対応、です。
そして、これらの課題を解決するための拠点形成と連鎖的なまちづくりの実現に向けてゾーニングを設定しています。しかし、ビジョンと再整備基本計画におけるゾーニングの違いを見ると、次の2点が特徴的です。
(1) ビジョンでは、整備基本計画で「④街区」と設定された街区には、「③街区」と異なり、住居機能を整備するゾーニング設定がありません。
(2) また、ビジョンでは、「③街区」に「公共」というゾーニングの設定はありません。また、「④街区」「⑤街区」において「公共・業務」というゾーニングを設定していることは、この街区での市庁舎等の建て替えを想定していたことを示しています。
ところが、「⑤街区」への市庁舎の建替え移転という具体的な事業レベルでの「前提方針」を再整備基本計画に取り込むために、市はビジョンで設定したゾーニングを崩します。というより、もはやゾーニングの設定ということ自体を放棄したと言っても過言ではない内容に修正したと思われます。
(※「枚方市駅周辺再整備ビジョン」より引用)
具体的には、以下のとおりです。
(1) 大阪府北河内府民センターや枚方市駅前行政サービス施設を整備するため、「③街区」ゾーンに公共機能を加えました。
(2) 「④街区」の土地利用を「複合施設の整備」としていますが、これは当該用地の民間開発事業者への売却及びタワーマンション建設の容認を前提にしているので、極めて大きな住宅機能を加えることになります。逆に公園の拡張が大きな比重を占めるので商業機能は縮小しています。
(3) 「⑤街区」における枚方市役所新庁舎の隣接地にも住宅機能を加えています。
(4) 「⑤街区」における枚方市役所新庁舎に5,000人規模のアリーナの合築を検討するとし、それを見越して枚方市駅から「⑤街区」に直結するペデストリアンデッキが計画されていることをみると、「⑤街区」ゾーンには大規模集客施設機能を加えることになります。
(※2023年3月に示された「枚方市駅周辺再整備基本計画(改訂版素案)」より引用)
■ゾーニング構想放棄の背景
このようなビジョンで設定したゾーニング構想の放棄は、市が繰り返して答弁してきたことによると、2017(平成29)年8月に『枚方市における国・府・市有財産最適利用推進連絡会議』において、「枚方市駅周辺再整備を円滑に進めるために、大阪府北河内府民センターが③街区に移転し、その跡地の⑤街区に国・市による合同庁舎を整備する方向で検討を進めていくことを確認した」ことに端を発しています(※)。
しかし、なぜ枚方市のまちづくりにとってこうした方向が「最適」なのかについて、決めつけたメリット項目を挙げただけで、まともな説明はなされませんでした。「枚方市の枚方市駅周辺再整備事業に伴う新庁舎建設に協力するために、まだ建替えや廃止の時期になっていない北河内府民センターを③街区に移転する必要がある」という理由付けが、大阪府にとっては「最適」だったのかもしれません。ちなみに、2017(平成29)年8月時点での枚方市長は伏見市長で、この連絡会議を所管する枚方市の部長は大阪府からの派遣職員でした。
※枚方市役所の位置をめぐる経過については、私のホームページに「枚方市役所の位置をめぐる意見対立について」(2022年10月1日)で詳しく説明させていただいているのでご参照ください。
■ゾーニング構想放棄がもたらす問題点
北河内府民センター跡地の「⑤街区」へ市の新庁舎を移転し、跡地となる「④街区」の市有地を民間デベロッパーに売却してタワーマンションを含む大規模な複合区分所有建築物の整備を打ち出す再整備基本計画の「連鎖型まちづくり」とやらは、枚方市駅周辺における課題解決にはつながりません。それは、「ゾーニング構想の放棄」によってもたらされる、次のような問題が考えられるからです。
1つには、公共機能が分散することで、利用が不便になったり、機能が非効率になったりすることです。
そもそも、枚方市駅周辺再整備においては、あちらこちらに分散していて不便で業務効率が悪く、無駄な維持管理費用が発生する「蛸足市役所」を解消することも大きな課題だったはずです。しかし、現在、北河内府民センターとともに、枚方市の駅前行政サービス機能が「③街区」において整備されています。再整備基本計画に定めるように、「⑤街区」に枚方市役所庁舎と税務署が整備されることになれば、市役所窓口の統合や各種の公共機能の集中には程遠い状況となります。
かつて市が進めた「官公庁団地の整備」により、北河内における中核的な行政拠点となっていたのが「⑤街区」のエリアでした。しかし、近年、ハローワークが枚方市駅に隣接するビオルネ内に移転するなど、当該エリアにおける国・府の行政機能は縮小しています。
北河内府民センターが「③街区」に移転した後、交通結節点である枚方市駅から遠くなるこの場所に、わざわざ枚方市が費用を負担して用地を確保し、新庁舎を整備することは、公共機能の利便性を高めることにはなりません。ICTの活用によるデジタル化の推進は、物理的・空間的な施設配置の非効率さをカバーしきれる訳ではないのです。
私は、枚方市駅に近く、「③街区」にも比較的近接している自己所有地である「④街区」内に公共機能の集積を図ることが適切だと考えます。
なお、市は、市役所の「⑤街区」移転という「前提方針」を合理化するため、次のような説明をしていますが、全く説得力がないと思います。
◆市役所が駅から遠くなることについて
[市の説明①] 回遊性を高め、「ウォーカブル」な街づくりを進めるために有用
[私の考え①] 「ウォーカブル」とは「歩きやすい」「歩きたくなる」「歩くのが楽しい」といった意味で、そのための環境を整備することと、歩くのが困難な来庁者も多い市役所庁舎を、わざわざ不便な場所に移転することとは別の次元の話で、移転理由にはなりません
[市の説明②] ⑤街区は宮之阪駅に近くなり、枚方市駅の周辺地域にも波及効果が生じる
[私の考え②] 枚方市駅は京阪本線の中核的な駅で、バスやタクシーを含めた公共交通の結節点です。新たに支線への乗り換えや利用が必要となる宮之阪駅を来庁者への便利さの根拠に持ち出しても、市民の理解は得られないと思います。また、枚方市駅へ直結するペデストリアンデッキは、来庁者動線の集中をもたらすもので、周辺地域への波及をもたらすものではないと思われます
◆災害対応における立地の優位性について
[市の説明③] ⑤街区のほうが災害対応における立地の優位性がある
[私の考え③] 洪水時における危険性は⑤街区も④街区も同じ。内水氾濫時における危険性も、新庁舎の接道位置においては同じで、優位性は認められません
2つめは、枚方市駅周辺における住宅機能整備のあり方についてです。
ビジョンにおいては、住宅機能を整備するゾーンは公社住宅の建て替えと京阪電鉄所有地内における駅直結型住宅機能の提供が予定される「③街区」だけに設定され、再整備基本計画のように、「④街区」においても、「⑤街区」においても、あたりかまわず住宅機能を整備するなどということは行っていません。
それには、次のような理由が考えられます。
① 住宅機能と賑わいを創出する機能を提供するゾーンは区分しないと、双方の機能が対立する危険性があるからです。実際、ニッペパーク岡東中央(岡東中央公園)にせよ、岡本町公園にせよ、イベント開催に伴う音について近隣住民等からの苦情対応に苦慮している現実があります。枚方市駅近隣に住もうとする居住者の世帯構成やライフスタイルは、大阪市の中心部等の場合とは異なり、閑静な生活環境へのニーズも強く、「にぎやかなこと」への許容度は低いと思います。
② 人口減少時代にあって、枚方市駅直近エリアでの住宅供給を大幅に増加させると、他都市からの人口流入よりも市域内での住み替えによる市域内転居等を加速させ、他地域におけるまちづくりを困難にする要因となりかねないからです。また、枚方市駅周辺における住宅機能の整備が必要だとしても、駅直近エリアでの供給拡大を先行させる必要はありません。
③ 枚方市駅直近での住宅開発は、住宅供給公社や京阪電鉄関連企業が行う賃貸住宅事業を除くと、建設投資を速やかに回収できる分譲住宅事業となることは、この間、繰り返して行われてきた民間事業者からの意見聴取により明らかです。まして、「④街区」において住宅開発を行う場合は、事業資金の早期回収や事業採算性を高めるため、分譲タワーマンションの建設となることは確実です。
しかし、タワーマンションは、建築物・設備ともに高機能・高額で、分譲後の長期間における維持管理・改修等が困難と言われています。また、多様で多数の区分所有者による管理組合運営は極めて困難で、ガバナンス機能が伴わない大規模区分所有建築物は、長期的なまちづくりにおける大きなリスクとなります。さらに、大規模災害発生時の停電に伴うエレベーターや給水機能の停止等により、上階エリアについては「陸の孤島」となるという防災上の懸念もあります。
「④街区」の土地の90パーセントは市有地です。貴重な公共用地を手放して、数多くの問題が指摘されはじめているタワーマンション建設を誘導する公共事業を行う合理性は全くないからです。
④ 公共施設が設置されていた区域を、タワーマンションという人口密度の高い住宅ゾーンに変換するとなると、それに見合った都市基盤が必要だからです。給水施設、汚水排水施設、発生交通量に見合った道路基盤などです。まして、住宅機能、公共機能にアリーナ等の大規模集客機能まで混在するようなゾーンを整備するとなると、基盤整備のためのコストを負担し、発生が予測されるリスクを取り除けるのでしょうか。例えば、枚方市駅周辺再整備の課題には「通過交通による駅前広場の交通混雑」というものがありますが、駅前に大規模な住宅やアリーナのような大規模集客施設を整備した場合、それらが発生させる車両交通量や歩行者が更なる渋滞の要因になる危険性も高いと思われます。
結局、あたりかまわず住宅機能を整備しようとする理由は、「公有地の民間企業売却」を具体化しようとしても、住宅地としての用途でないと売れないから、というだけのことではないでしょうか。
■「民間活力・民間ノウハウ」への過剰期待
大阪府による北河内府民センターの③街区移転という決定を受け、「その跡地となる⑤街区に枚方市役所を移転建替えする」ということを「前提方針」とした「④街区」「⑤街区」の再整備計画が全く不適切なものとなっている根本的な原因には、「民間活力」や「民間ノウハウ」というものに対する「過剰期待」があると考えます。
市は、庁舎を「⑤街区」へ移転し、空いた「④街区」の再整備へ民間活力を導入すれば、民間ノウハウによって経済的効果の高い土地の利活用が実現できると繰り返し説明してきました。そしてそれを「連鎖型まちづくり」と表現してきたのです。
伏見市長は、地域紙のインタビューにおいて、「持続可能なまちづくりの秘けつは、その道にたけた民間事業者に任せ、知見と経験をふんだんに生かしていただく、行政は調整やサポートに徹することで成り立って行くと確信しています」とまで述べられています。驚くべき「過剰期待」です。
民活・民間ノウハウとは、いつでも、どこでも、制約条件なしに発揮されるものではありません。そうした思い込みは、非現実的であると同時に、「公共」が担うべき重要な機能や役割を失わせ、まちづくりにおける重大なミスリードを招く危険性があります。市は、「④街区」の再整備を民間開発事業者に任せたら、「多くの人がワクワクし、Well-being(幸福度)が高まるまちになる」と思い込んでいるのかもしれません。しかし、民間アドバイザーからの提案も、サウンディング型市場調査なるものにおいても、そうした思惑が実現できる確証は得られていません。
民間企業による事業活動は、投下資金の確実な回収や収益の確保、また現在・将来リスクの最小化といった厳しい制約条件の中で取り組まれています。ですから、「④街区」において計画する「まちの魅力を高める民間複合施設とした中に整備される生活サポートのための諸施設」の整備を民間事業者の提案に委ねると、それらの実現と持続可能性は担保されず、一方で課題の多いタワーマンションの建設だけは必須の事業として想定されているのです。
こうした事業枠組みの中で民間デベロッパーが整備する街区が、「多くの人がワクワクし、Well-being(幸福度)が高まるまち」になるとは到底思えません。
結局、市と民間事業者の間のギャップは、枚方市駅周辺地域における商業・サービス事業の「ポテンシャル(潜在的可能性)の評価差」に起因していると思います。従って、枚方市駅周辺地域の立地上のポテンシャルを改めて客観的に捉え直す必要があるのではないでしょうか。
つまり、枚方市駅周辺地域を含めて枚方市は淀川によって淀川右岸地域と地理的に分断されているため商圏が真円を描けず、半円形(集客可能性が2分の1)となるという地政学的な弱点があるということを認識しておく必要があるということです。
また、隣接する樟葉駅には、くずはモールという有力な商業・サービス機能が整備され、競合しています。市の東西を結ぶ交通動線は弱く、市の中東部地域の消費者は、アクセスが容易な第二京阪道路や国道1号の沿道に立地する大規模な商業モール等を利用されることが多いのではないでしょうか。
何よりも、枚方市駅が特急停車駅で、京都・大阪の中心部に30分以内というロケーションであることは、京都・大阪の中心地域への「ストロー効果」をもたらします。
枚方市駅周辺において複数の大型商業施設が閉店したこと、また商業施設全体の販売額が減少しているという課題の背景にあるこうした根本的な要因を冷静に認識せず、「④街区」という空間に施設を整備さえすれば、それで商業の活性化や賑わいが創出できるという主観的な思い込みで巨額の投資を行うことは、枚方市全域を対象に、また市民生活のすべての領域を対象に重要性の高い政策展開を行うのが市政運営の基本であるべきことを踏まえると、極めて無責任で偏った取り組みだと考えます。
■老朽化した公共施設更新の軽視
ビジョンでは、枚方市駅周辺再整備の大きな課題として、まちの賑わいや商業の活性化とともに、駅前広場の交通混雑や周辺施設の老朽化をあげています。
市役所本館・別館、市民会館の本館・ホール棟、そして職員会館、公用車駐車場など、「④街区」内の公共施設の老朽化は著しいものがあります。総合文化芸術センターのオープンにより、市民会館の本館・ホール棟については、すでに設置条例も廃止され、その役割を終えています。
しかし、市は市役所の「⑤街区」移転を「前提方針」とした「④街区」における非合理で大風呂敷を広げた計画策定に手を取られ、こうした老朽建築物の更新を急ぎませんでした。ところが、この間、これら建築物の危険性が臨界点を超える事態が次々と発生したのです。
最初が市民会館の大ホール棟。法定検査で外壁タイルの落下の危険性が指摘され、2021年5月、解体するまでの間の安全確保のために約2000万円の費用をかけて外壁タイル等の落下防止ネットを外周に張り巡らせる工事が行われました。
次が、職員会館。2022年7月、4階軒先からコンクリート片が剥落しました。市は、大ホール棟同様の落下物防護ネットの設置までは行いませんでしたが、塀及びシェルターの設置、アスベスト対応で約3,000万円の費用を支出しました。
次が、市役所本館。今年の4月、4階の外壁軒先部から30cm程度のコンクリート片が剥離し、落下。通行人への被害はありませんでしたが、現在、暫定的な落下物防護ネットを張り巡らせるとともに、足場を組んで「あさがお」(ハネ状の屋根のこと)を設置するとともに、緊急対応を施工した業者に点検・調査を委託するという状況になっています。
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各地で大きな地震が続発しており、大規模地震の発生に備えることが最重要な課題となっているにも関わらず、発災と同時に市行政が職員救助と倒壊建築物へ対応しなければならない「被災者」となる状況がリアルに見通せる事態になってしまったのです。老朽化した公共施設の危険性が一気に顕在化したことは、市の予想外のことだったかもしれません。
しかし、現実性のない「賑わい創出」などを追い求めている間に、市民と暮らしを守るための拠点であり、まちのシンボルでもある市役所周辺が、まるで解体工事が始まったかのような建築物が集合するエリアになっているのは極めて由々しき事態だと考えます。
■事業手法への囚われ
老朽化した公共施設の解体・撤去や建て替えを先行する判断を市が行わなかったのは、工事費用に国庫補助金を財源としたいと考えたからです。そのための事業手法として、当初計画されたのが市街地再開発事業です。ところが事業区域を広く設定すると、多数の権利者の合意形成に長期間を必要とするため事業の実現が遠のくとして断念しました。
それでもなお、補助金のある事業手法の導入に拘る市は、土地区画整理事業という事業手法の導入を計画しました。しかし、空洞化が進む中心市街地でもなく、土地区画整理事業でなければ土地の有効利用を図れない街区でもないのに、財源確保のための手段としてこの事業手法を選択すると、用地売却を前提に民間開発事業者の意向にも配慮して計画内容を描かなければならないということになってしまったのではないかと推察します。いわゆる「手段と目的の転倒」が生じたのではないかということです。
すなわち、枚方市駅前の公園の拡張や区域内道路の整備の拡張が、まちづくりにとって必要不可欠だからではなく、土地区画整理事業を用いて公共用地を売却するにあたって整備すべき公共施設とした必要だったからではないかということです。
しかし、整序されていない土地区画を整理し、減歩によって各地権者から生み出した土地を売却して資金を確保する土地区画整理事業手法は、公共用地ばかりの「④街区」「⑤街区」においては、事業費の拡大に伴う300億円とも400億円とも予想される財政負担は、結局、市有地の売却や事業負担金の支出という形で、市の負担、市民の負担となるのです。わずかばかりの国の補助金を確保するために。
ちなみに、未曽有の防衛費拡大に伴う財源確保のために、国交省所管のこうした補助金の確保は、極めて困難になることが予想されます。
危険な公共施設の速やかな解体のための費用と財源は、新庁舎建設のための前段工事目的とするか、解体自体を目的とするかは別にして、借入金等による負担の平準化や、基金の投入など、創意工夫の余地はいくらでもあったはずです。「前提方針」を具体化する事業手法による国庫補助金に囚われて、危険な公共施設の解体と新庁舎への建て替えをズルズルと遅らせることになった責任は極めて大きいのではないでしょうか。
■「アリーナ建設」という迷走
駅前の広い市有地をどう活用するという課題についての選択肢は、新庁舎建設への活用を中心に据えるか、民間開発に委ねる(民活導入)かの2つでした。市は、魅力ある商業・サービス系の「賑わい」創出だの、魅力ある民間施設に開業してもらおうなどという思惑(夢)を描いていました。ところが、先に整理したように、そうしたものは「幻」であり、現実にはタワーマンション建設と公園の拡張に収斂してしまうことが明らかになりました。
それでも、いったん決めたことは頑なに見直さない伏見市政は、更なる迷路に迷い込んでしまいます。それが、「⑤街区」に整備する新庁舎へのアリーナ合築案です。
これは、アリーナ整備でも打ち出さないと、貴重な市有地を手放し、多額の予算を投じて行う「④街区」再整備の内容がタワーマンションとサービス系業務ビルの合築建築物の建設と公園の拡張という意義や魅力のない計画になってしまうからです。
ところが、「⑤街区」の新庁舎に隣接するアリーナ合築案は、単なる思い付きの域を超えない内容の無さでした。このようなレベルの構想力では5,000人規模のアリーナなど、建設も経営もできようはずがありません。仮に真に意味のあるアリーナを建設するとすれば、立地も施設性格も、そして経営のあり方も、もっと適切なプランを検討しなければなりません。「⑤街区」整備にアリーナ建設を持ち出したことで、その機会も潰してしまっているのです。
また、アリーナを「⑤街区」に建設するなどという無理なプランにするから、「⑤街区」につながる「緑の大空間」などという公園の拡張や府道を安全に越えさせる歩行者動線としての長いペデストリアンデッキの整備、さらにはタワーマンションを整備する街区の基盤道路の整備や府道との交差点整備のための土地区画整理事業区域の拡大が必要となり、必要事業費は増大する一方です。
「将来にツケを残さない」「無駄な公共事業の見直し」「徹底した行財政改革」などを訴えてきたはずの市政が 何百億円という無駄な事業、それも単に無駄な支出をするだけでなく、貴重な市有地を売払い、解体や建て替えが困難で50年先には大きな問題となる多数の区分所有者の存在する複合建築物を民間デベロッパーに建てさせようとすることは、市民への背信行為ではないでしょうか。
■議会の軽視
そもそもの出発点となる判断や考え方がきちんとした説明のできない不合理なものである以上、質疑をいくら重ねようと合意を得ることは困難です。「④街区」「⑤街区」の再整備計画については、コロナ禍を口実にまともな市民説明もせず、議会からの様々な問題点の指摘にまともな対応もできないままに、ズルズルと具体的な事業展開に入れない状態になっていました。一方、「③街区」の再開発事業の進展に伴い、大阪府における北河内府民センター移転については、大阪府議会における予算議決が必要な段階になりました。
市としては、当初、提案を予定していた時期から大きく遅れたというものの、何とも強引に行われたのが、市役所の位置を定める条例改正の提案でした。
これは、新庁舎の具体的な内容も費用も全く具体化できていないこと、枚方市議会や市民の理解の全く得ることができていないこと、条例改正に先立つべき予算の議決がなく条例施行期日を市長に委任してしまうという法的な諸原則から逸脱したものであることなど、提案そのものが全く不当なものであったと私は考えています。これは、大阪府政の立場だけを慮って行われたものではなかったでしょうか。特別多数(3分の2)の賛成が必要なこの条例改正は、他の自治体では事業が具体化し、予算審議の段階で提案されるのがオーソドックスなプロセスなのです。結果的に、2022年9月、枚方市議会における審議の結果、改正条例案は必要な賛成数を確保できずに否決されました。
二元代表制の下で、市民の代表である議会の意志を尊重するなら、潔く計画の根本的な見直しに取り掛からなくてはならないのに、市は市役所の「⑤街区」移転が否決されたことなど全くなかったかのような姿勢で事業を進めています。否決された移転条例を再度提案して可決に持っていきたいということなのかもしれませんが、今回、私が整理した問題点や課題、議会におけるさまざまな指摘、市民の皆さんの疑問やご意見に対してきちんとした説明も行わず、何度も何度も同じ条例提案を繰り返すというのであれば、「うん」と言ってくれるまでダダをこねる子どものような振る舞いではないでしょうか。
■おわりに
現在、④⑤街区に関する再整備については、これまでの経過や問題点を踏まえ、いったん立ち止まって、ゼロベースで計画を見直すべき時だと思います。
ここに整理させていただいた考えは、私一人のものではなく、たくさんの方々のご意見を集約して書いたものです。伏見市長をはじめ枚方市行政として、もちろん反論は反論として行っていただくことは構いませんが、詳細で明確なご主張、ご説明をいただければ幸いです。
▶ PDFはこちらから。「枚方市駅周辺再整備計画の問題点について」
▶ 2023年4月、市庁舎本館4階外壁軒先部からコンクリート片が落下しました。
▶ 移転条例は否決されたのに、枚方市駅周辺再整備基本計画の改訂に向け、2023年3月31日、4月1日、たった2回の市民説明会の開催、そして、パブリックコメントの実施。
▶ 特別多数議決を要する市役所の位置を定める条例の「否決」が意味することについて、説明を書いてみました。
▶ 2022年9月2日の全員協議会の報告です。
▶ 2022年6月定例月議会の報告です。