いま、明らかにしておかなければいけないこと。総額15.6億円のコロナ対策実施店舗応援事業について、実施までに整理しておいていただきたい課題など。
8月6日に開催された緊急議会で、新型コロナウイルス感染症対策関連の補正予算が審議され、全会一致で可決されました。最も質疑が多かった案件は、「コロナ対策実施店舗応援事業(予算額 1,560,215千円)」でした。
私が所属する会派の「連合市民の会」からは、番匠議員が質問しました。
この事業は、市内事業者の感染症対策を促進するため、実行委員会を設置し、感染防止宜言を行う店舗で使用できるクーポン券を発行するという枚方市の独自事業で、子どもから大人までのすべての市民に1人あたり3,000円のクーポン券を送付するという内容です。約15.6億円の予算の内訳は、クーポン券が換金された時の費用が約12億円、事業実施のための事務等経費が約3.6億円とのことで、実行委員会に「負担金」として支払われるというものです。
議会では、7人の議員が質疑されました。私は質問は行いませんでしたが、事業担当課へのヒアリングは番匠議員と一緒に行いました。最終的に、補正予算は可決されましたが、この事業にはあまりにもたくさんの疑問が残り、実施までに整理しないといけない課題や、今後に向けて教訓にしないといけないことがたくさんあると思われることから、ここで私の考えを明らかにさせていただきたいと思います。
■この事業の目的
どんな公共施策も、何を目的に、どんなことを達成しようとしているのかを明確にすることは、納税者に対する最も基本的な責任です。まして、15.6億円もの税金を使う事業なのですから、なおさらです。
「3,000円のクーポン券(=金券)を全市民に配る」という事業の形をみると、1人10万円と3,000円と額は違いますが、国が行った特別定額給付金に似ています。しかし、特別定額給付金事業は「家計への支援」を目的にしていましたが、市が行う今回の事業は「市内事業者の感染症対策を促進するための事業」で、あわせて「新型コロナ禍で売り上げが落ち込む市内事業者・店舗の支援のための事業」であると説明しています。
■目的の違いは事業の必要性の判断を左右します
「事業の目的」は、それなりに必要性が理解してもらえるものなら何でもいいというわけにはいきません。そのようなことがまかり通ると、あいまいな目的の事業が立ち上げられてしまい、主に税で成り立っている国や自治体の財政は破綻してしまいます。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の防止と社会経済活動の維持の両立を図るためには、確かに市内事業者にも感染症対策をしっかりと行ってもらう必要があります。具体的には、そのための仕組みとして、大阪府が実施している「感染防止宣言ステッカー」を掲示する店舗・施設を増やすことが必要だということも間違いありません。
問題は、その目的を実現するために、「すべての市民に12億円を配る」という手段が適切なのかどうかということです。
■感染防止宜言ステッカーの仕組み
大阪府が実施している「感染防止宣言ステッカー」(以下、ステッカー)とは、業種ごとに定められた「新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン(業種別ガイドライン)」を遵守している事業者が大阪府に申請して取得するもので、これを掲示しておくと、市民の皆さんに安全にご利用いただけますよ、というアピールにもなるし、感染防止対策も促進できるという効果をめざしたものです。
業種別ガイドラインは7月末現在で159もの業界団体が定めています。日常生活に関わりの深い飲食・小売店舗から、パチンコ・パチスロなどの遊技場、また、いわゆる接待を伴う飲食店まで、ほぼすべての店舗・施設において、感染対策を行った上でステッカーの取得を申請すれば、ステッカーを取得することができます。
大阪府は7月からステッカー事業の運用を開始しました。開始当初、申請数は伸び悩んでいたようですが、再び新型コロナウイルス感染拡大が深刻化し、新たな休業や営業時間短縮の要請、また、それらの要請に伴う補償の対象になるかならないかにステッカー掲示の有無が関係しそうだという情報が拡大したこともあり、現在、急速にステッカー申請が増加しているようです。
「コロナ対策実施店舗応援事業」の実施により市内のステッカー掲示施設・店舗をどれだけ増やそうという目標を持っているのかという議員からの質問に市の担当部長は「1,000店舗」と答弁しました。8月3日現在の枚方市の店舗数は約700店舗なので、12億円をかけて目標がわずか300店舗の増加というのも驚きですが、「コロナ対策実施店舗応援事業」が開始される前に1,000店舗を超えてしまう可能性も高いように思われます。売り上げの減少に苦しんでいる事業者の皆さんにすれば、休業要請に伴う補償の対象になるかならないか、12億円ものクーポン券の使用対象店舗となれるかなれないかは、わらにもすがるような思いで受け止められることだと思うからです。
目標店舗数を1,000店舗としたのは、過去のプレミアム商品券事業をベースにしたとの説明を受けていましたが、そのこと自体、行政がこの「コロナ対策実施店舗応援事業」を新型コロナウイルス感染症対策事業としっかりととらえきれていない認識の現れのようにも思われます。
■投入された公費(税金)の配分の観点での評価
では、コロナ対策実施店舗が増加したら、それで15.6億円を投じた「コロナ対策実施店舗応援事業」の効果であるとはたして評価してよいのでしょうか。
コロナ対策を実施したくても実施できない事業者に資金面や技術面での様々な直接的支援を行うことが公共的な施策の本筋ですが、「コロナ対策実施店舗応援事業」は違います。投入する公費(=税金)をクーポン券の形で市民に預けるという仕組みです。そして、市民の皆さんがクーポン券を使ってくれることで初めて事業者さんや店主の方に支援が届くのです。使ってもらえなかったら、何の支援もなかったのと同じです。
問題は、12億円のクーポン券を多数の施設・店舗が取り合いをすると、必ず強いところと、弱いところができてしまうということです。
過去の商品券事業の場合、日常の生活必需品などの支出に商品券が充てられることが多く、使用先の比率は大手商業事業者が大きくなりました。今回の「コロナ対策実施店舗応援事業」の場合、さらに業種・業態が拡大します。ステッカーを貼り、クーポン券の利用を可能とした施設・店舗ならどこでも利用可能なのです。事業者の限定は行わないとの答弁もありました。
この「コロナ対策実施店舗応援事業」が「生活支援・家計支援」のための事業であるならば、市民に交付した段階で事業は完了となります。クーポン券をどこで使用しようと、それはもらった人の自由です。しかし、「コロナ対策実施店舗応援事業」がコロナ感染対策のための事業、事業者支援のための事業だというのであれば、投入された公費(税金)が最終的にどの施設・店舗にわたって、売り上げ確保という支援に貢献したのかまで検証される必要があると思います。
事業が終わった後、クーポン券の利用実績を集計したら、この「コロナ対策実施店舗応援事業」が実施されようとされまいと、もともと感染防止対策を実施されていた大型商業施設やパチンコ店などの遊技場が使用施設の上位を占めたとしたら(もちろんこれは仮定の話ですが)、この事業は税金の使い方として妥当な事業だったと評価できるでしょうか。
■予算化のタイミング
今回のクーポン券事業に対して議会でも出された多くの疑問は、急速に感染拡大が進んでいる今、なぜこの事業を予算化するのかということでした。
新型コロナウイルス感染症対策は、感染防止対策と経済・雇用・所得保障のバランスを取りながら、状況に合った適切な対応をしなければなりません。舵取りが非常に難しいのです。第2波の到来とも言える感染拡大に直面している現在の状況の中で、外出の促進・売り上げの拡大を図ることになってしまう独自の「コロナ対策実施店舗応援事業」に15.6億円もの予算を充てるという選択には、やはり疑問が残ります。
感染拡大がもっと深刻になれば、経営がますます苦しくなる事業者・店舗に、もっと直接的な支援をする必要が出てくるでしょうし、医療崩壊を起こさないための取り組みにもさらに予算を充てる必要が出てくるのではないかと思われます。その時に、「コロナ対策実施店舗応援事業」に15.6億円を使ってしまったことが悔やまれることになりはしないか、私は非常に心配です。財源は限られているのですから、優先順位や緊急性の判断が大切だと思います。
■まとめ
予算案は可決され、「コロナ対策実施店舗応援事業」は実施に向けて動き出します。行政には、この事業の実施に際して、事業に対する様々な疑問や懸念を取り除くための創意工夫を是非ともお願いしたいと思います。そして、「コロナ対策」と銘打てば何でもありのような事業の進め方ではなく、今後はしっかりとした事業設計をして議会に提案し、丁寧な審議を行っていただくよう求めていきたいと考えています。
長文をお読みいただき、ありがとうございました。どうぞ、皆さんのご意見をお聞かせいただければと思います。