新型コロナウイルス禍は、変異株のタイプによって社会にもたらす影響がずいぶん異なることを認識すべき。オミクロン株のパンデミック下では、業務継続計画の適切な遂行が最も大きな課題となるのではないでしょうか。
枚方市議会議員の奥野みかです。
新たな変異株「オミクロン株」の市中感染(感染源が不明)が各地で確認されています。デルタ株などに比べて感染力が非常に強いと言われており、今後さらなる感染拡大が懸念されます。枚方市内では、昨年12月25日にオミクロン株への感染が初めて確認されました。
現在、枚方市でも新型コロナウイルス感染症の感染が急拡大しています。1月12日の新規感染者数は75人、療養者数は319人(うち重症者0人)[大阪府 1,711人、全国 13,245人]となっています。市ホームページに感染状況が公表されていますが、下図を見ると、10歳未満も含め、若年層への感染拡大が顕著となっています。急速に広がっている新型コロナウイルスのオミクロン株は、デルタ株に比べて重症化のリスクが低いとの報告はあるものの、若者から中高年世代に感染が広がってくると、これまで以上に重症者数が増えることが懸念されます。感染者数が拡大すれば、重症化する人は必ず出てくることから、医療への負担は大きくなってきます。
大阪府から、軽・中等症病床については、フェーズ4の運用に速やかに移行するようにとの要請を受け、2022年1月11日付で、市立ひらかた病院は受入れ病床を拡大しています。
オミクロン株の感染急拡大に伴う今後の医療・療養体制等について、2022年1月7日の府新型コロナウイルス対策本部会議での報告は図のとおりとなっています。
まずは、一人ひとりの基本的な感染対策が重要ということは繰り返し確認していかなければならないと思います。
感染が拡大した場合の枚方市の対応について、市関連施設の利用及び市主催・共催イベントや、市立小・中学校及び市立保育所、市立幼稚園などの各対応について、市ホームページにまとめてあります。
そのなかで、「職員の勤務体制」については、「引き続きテレワークを活用するとともに、時差出勤の拡充を図り、感染防止対策に努めます」と記載されています。
また、「業務執行体制」については、「保健所の業務執行体制の確保を目的に、業務継続計画(BCP)を適用する」と記載され、新型コロナ感染症対策における保健所の人員体制が掲載されています。
新型コロナウイルス禍は、変異株のタイプによって社会にもたらす影響がずいぶん異なるということをしっかりと認識しなければならないと考えています。デルタ株と異なり、オミクロン株のパンデミック下では、業務継続計画の適切な遂行が最も大きな課題となるのではないでしょうか。
第5波のデルタ株の際には、重症者も、軽・中等症者も、病床不足が深刻でした。全国では13万人超が自宅での療養を余儀なくされ、各地の保健所の負担が増す中、症状の変化を聞く健康観察が滞るなどして急変に対応できず、自宅で亡くなられるという報告もありました。重症化して亡くなる人を減らすためにも、入院の必要性など、感染者を適切に把握することと、在宅療養者を見る医療機関など、在宅医療も含めた医療資源の確保が課題でしたが、今回のオミクロン株の場合は、重症化率は比較的低いものの軽症者が多発する大規模流行により、濃厚接触者となって働けない社会機能維持者が増加し、いかに業務を継続することができるのかが課題になると思います。
沖縄県内では、新型コロナウイルスに感染したり濃厚接触者になったりするなどして働くことができない医療従事者が、1月12日現在、628人(感染180人、濃厚接触者など448人、拠点病院分)で、救急の受け入れ制限を行っている医療機関は8か所で、一般診療を制限している医療機関は14か所となるなど、沖縄では、複数の病院で救急患者の受入れ制限をせざるを得なくなったことが報告されています。病床利用率だけでなく、人員確保の側面からも医療ひっ迫の状態を評価する必要があると言われています。
医療従事者や介護施設職員の感染や濃厚接触者が増え、職員が出勤できなくなることによる「医療崩壊」「介護崩壊」のリスクが懸念されますが、オミクロン株の流行が先行している海外の状況を見ると、日本においても、早くに考え方と体制を確立しなければなりません。
国の専門家会議は、「各施設の業務継続計画の早急な点検が必要」と説明しています。医療・介護以外でも、交通機関、保育所、流通・運輸、ライフライン事業等々、エッセンシャルワーカー等、社会生活機能を維持することに関係するあらゆる業種において、職員が感染した時にどう業務を継続するか等、業務に優先順位をつけ、シミュレーションも行っておくなどの準備が必要であると思います。
感染が拡大している広島県では、電力、ガス、交通などの県内の12の事業者と知事がオンラインで会議を開き、県民の生活に必要な社会機能を維持できるよう、各事業者の事業継続計画を改めて確認することや、従業員の感染対策を徹底を呼びかけたとの報道がありました(2022年1月8日、NHK「広島 知事とライフライン事業者が会議 社会機能維持へ対策徹底」)。
枚方寝屋川消防組合でもクラスターが報告されています。1月12日現在、寝屋川消防署本署勤務職員の感染者は合計15人となっています。
消防・警察、学校園、水道、ごみ処理、保育所、留守家庭児童会室、学校給食、病院、福祉サービス等々、ライフラインや社会生活の維持に必要な公共サービスを担う行政においても、職員が感染した時にどのように業務を継続することができるかは大きな課題です。
私は市行政において、オミクロン株への対応として検討するべきポイントは、以下の3点ではないかと考えています。
①業務の優先順位付けをしっかりつけること
②執行体制の分割(集団感染リスクを下げる)
③執行体制の流動化(応援体制を確立する)
平時であっても、住民が安心して暮らすために不可欠な生活基盤を支える地域公共サービスの担い手も体制も圧倒的に不足していることが明らかになってきています。窓口業務の一面だけを見ると、オンライン処理・ICT化も有効ですし、地域公共サービスの業務委託による民間活力の活用が求められる面もあるとは思いますが、緊急・災害等の状況であっても縮小できない地域公共サービスの場合、業務委託の受託者でバックアップ体制が確立できるとは思えません。「公共財」でもある地域公共サービスの現場で働く人を育成するには、時間と継続性が必要です。
長きにわたる新型コロナウイルス禍や相次ぐ自然災害への対応に際して、いま、改めて「公」の意義や役割、地域公共サービスの重要性が再認識されているのではないでしょうか。
【参考資料】
▶ 「パンデミック流行に考える地方自治体の業務継続計画の必要性」、2020年07月29日、古内拓(日本総研)
(※以下、「終わりに」を抜粋)
これまでは災害が発生し、庁舎等の物的な損害が発生した場合の業務継続体制は検討されてきたが、今回のような感染症蔓延時における地方公共団体の業務継続手段の確保は、十分に検討されてきたとは言い難い。
一方で、『新型インフルエンザガイドライン』には、事業者に対する業務継続計画策定における留意点がまとめられている。今般の新型コロナウイルスの蔓延の実態を踏まえれば、これらの留意点は事業者のみではなく、地方自治体が業務を継続していくためにも必要であるといえることが分かるだろう。地方自治体の職員も、自衛的な手段を行使しつつ、住民サービスの提供に当たることが必要である。
また、今回提案した「他の地方自治体による職務代行」の実現のためには、前提として全国の地方自治体における業務の標準化が必要となる。地方自治体間の柔軟な連携の仕組みについては、これまでも人口減少社会への対応を目的として、すでに個別の自治体同士での検討が進められてきた。今後は、さらに今回のような感染症蔓延時に備えた業務継続体制の構築まで見据え、複数の地方自治体間で共通して業務の実施が可能となるよう、一層の業務の見直しを行うべきである。
▶ 「新型コロナウイルス感染症への対応―今こそ試される事業継続力」、2021年05月19日、國本桂冬(PwCあらた有限責任監査法人)
(※以下、「今こそ行動の時」を抜粋)
今日のような不確実性の高い世界においては、直面した危機から得た教訓をどのように次に生かせるかどうかが、企業のレジリエンス・事業継続性を左右することになります。上手く機能しなかった要素を整理して見直すだけでなく、上手く機能した要素を事業継続計画や平時のオペレーションの見直し(変革)につなげることで、次の危機や混乱が発生した時にも、自信を持って会社を運営していくことができるはずです。そのためにも、危機の経験が風化する前に行動を起こすことが重要と言えるでしょう。
【追記】
▶ 東京都、都内全企業にBCP点検要請へ 欠勤増に備え(2022.1.11_日本経済新聞)
小池都知事は、感染拡大に伴う従業員の欠勤により海外では地下鉄が運休したりごみ収集が停滞したりしている現状を指摘し、BCPの重要性を強調。「(欠勤者の)応援要員の手配方法や具体的な段取りなどの点検を」と、早急に体制を整える必要性を訴えた。
▶ オミクロン急増、病院は学校は 医療崩壊防止へ医師の隔離免除の国も(2022.1.13_朝日新聞)
新型コロナウイルスの「オミクロン株」による感染者の急増により、各国で社会機能の維持が深刻な課題となっている。
▶ 事業継続へ高まる危機感 JR東日本は事務職も乗務 (2022.1.15_日本経済新聞)
オミクロン型の猛威が広がるなか、事業の停止を回避できるか企業の焦りが強まる。…. 介護施設や鉄道などは代替人員の確保に向けた対策を急ぐ。….介護施設は慢性的な人手不足に悩む。現場での人繰りがすでに限界にきている企業も多く、少人数の欠勤でも運営に支障が出かねない。都内の介護施設の経営者は「そもそも人手不足で現場をギリギリで回している。人員融通なんて不可能だ」と憤る。