児童の放課後を豊かにするための取り組みについて~総合型放課後事業の目指すもの~について質問しました。12月定例月議会、一般質問の報告①です。
枚方市議会議員の奥野みかです。
ここでは、「1.児童の放課後を豊かにするための取り組みについて~総合型放課後事業の目指すもの~」の報告です。
「理念の欠如」と「拙速」は、結局は「矛盾」を生んでしまいます。そういった矛盾が、ブレブレの政策執行につながり、結果として、政治への不信や不満を増幅・増長させてしまうのではないでしょうか。
留守家庭児童会室、放課後子ども教室、放課後自習教室、枚方子どもいきいき広場。本市でこれまで実施してきたそれぞれの事業の理念は何であるのか。その理念に基づき、実施してきているそれぞれの事業の目的達成のために、何が課題で、どのような解決が求められているのか。子どもたち自身はどのように考え、何を望んでいるのか。
綱渡りの留守家庭児童会室運営。何をすればよいかも十分に検証できていない放課後こども教室。
運営手法の検討以前に、理念の共有が必要ではないでしょうか。民間の力も借りてまとめてやれば何とかなるみたいな「総合型」で本当に子どもたちの豊かな放課後が実現できるのか…。とにかく総合型放課後事業を開始したいとスピード感を追求するあまり、理念を見失ってしまうと、矛盾が生まれてしまいます。
子どもたちの放課後を豊かにする取り組みについての質問では、担当部長に、そして市長に、留守家庭児童会室と放課後子ども教室の2事業について、考え方を確認しました。市長自身の「ことば」ではありませんでしたが、「留守家庭児童会室」は、保育を必要とする児童の生活の場を確保し、保護者が安心して就労できる環境を整備するという児童福祉の観点からも重要な「子育て支援施策」の一つであることを明言され、「放課後子ども教室」については、保護者の就労に関わらず、すべての児童の自主性や社会性、創造性など生きる力を育み、可能性を広げるための取り組みであるとのご答弁がありました。
児童の放課後対策は、校庭や図書室の開放など、「居る場所」さえあればいいというものではありません。
児童福祉、学びの保障、子どもの社会教育の理念など、それぞれの事業目的を達成するためには何が課題で、その課題解決のために何を行うのか、「総合型」を実施するのであれば、その中でどのように解決されるのか等、想定される課題やリスクを丁寧に検討いただくことが必要であると改めて意見しました。
なお、「総合的な放課後児童対策に向けて_社会保障審議会児童部会 放課後児童対策に関する専門委員会_中間とりまとめ(2018年7月27日)」が厚生労働省のHPに掲載されています。
厚生労働省の社会保障審議会児童部会_放課後児童対策に関する専門委員会は、子どもの放課後生活はいかにあるべきかという観点から、2017~2018年にわたって議論を重ね、検討してきた結果をまとめたものが「中間報告書」とのことです。「中間」と記されているので、最終報告書があるのかを厚生労働省に確認したところ、今後も検討は必要であると考えているが、その後、委員会は開催されておらず、この「中間報告書」が一つの着地点であるとのことでした。
児童福祉法に基づき実施されている「放課後児童クラブ」は厚生労働省の所管です。共働き家庭等の子どもも含めた全ての子どもを対象とする事業・施設は、厚生労働省が所管する児童館や、文部科学省が補助事業として実施している「放課後子供教室」等があります。
全ての児童が放課後を安全・安心に過ごし、多様な体験・活動を行うことができるよう、放課後児童クラブや放課後子供教室と、児童館、社会教育施設等をはじめとした地域の様々な施設を有機的に連携させ、どの地域の子どもも放課後に多様な体験が行えるようなあり方を目指し、放課後児童クラブと放課後子供教室の両事業の計画的な整備等を推進するため、国においては、2023年度を目標年次とする「新・放課後子ども総合プラン」が策定されています。
2023年度のできるだけ早い時期に創設すると打ち出されている「こども家庭庁」に、この子どもたちの豊かな放課後を実現するための施策がどのように引き継がれていくのかも非常に気になるところです。
「健全育成という観点から子どもの放課後生活を保障していくためには、放課後児童対策の全容を明らかにし、その全体の充実を図ることが必要である。また、その中では、放課後児童クラブの果たすべき役割を明確化し、その量・質ともに充実を図っていくことも求められる。子どもたちが主体的に生きる力、他者と共に生きる力を育成することを支援するため、国が総合的な放課後児童対策を進めていくことが課題となるだろう。」
このように「中間報告書」は締めくくられています。
厚生労働省の所管事業だからかもしれませんが、厚生労働省の方は、「子どもの視点に立ち、子どもの最善の利益を保障し、子どもにとって安心して過ごせる生活の場」となるように策定された放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の「設備運営基準」や「運営指針」の遵守、児童の権利に関する条約の精神にのっとった育成支援(子どもの健全な育成と遊び及び生活の支援)を行う放課後児童支援員の資質の向上、そして、放課後児童クラブが果たすべき役割の確実な認識が重要であることを話されていました。
すべての児童を対象に、「放課後児童クラブ」と一体的に取り組む組むことが掲げられている「放課後子供教室」事業や、その他、様々な周辺事業との連携については、プラン等を参考に、各自治体の実情に応じた工夫が行われていると話されていましたが、放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)は、福祉の観点からの確実な実施が求められているということを強調されておられました。
上記の「中間報告書」において、
・「 放課後児童対策については、様々な事業や活動が実施されており、民間事業者も多く参画している。放課後児童対策を考えるにあたっては、民間事業者による事業や活動も含め、放課後児童対策全体の質をどのように担保していくかと同時に、公的に行うことが適切な施策について検討していく必要がある。」とか、
・「放課後という時間・空間は、子どもの成長・発達の面から捉え直すと、家庭における保護者や学校における教師とも異なる大人と過ごすこともでき、遊びを通して子どもが自主性や社会性、自立を育むことができる重要な場である。それを実現するために、放課後児童対策として、子どもの成長・発達という観点からどのような経験・体験を子どもに提供していくべきか、地域資源の活用を含めて検討することが求められる。その際、放課後児童対策は、現在の子ども・家庭に広がる様々な格差(経済格差、教育格差等)、地域間格差(財政面、社会的資源の格差等)の是正を目指したものと考えていくことが必要である。」といったことも記載されています。これらの観点もしっかりと見ておくべきものであると思っています。
以下、12月16日の一般質問でのやりとりを掲載します。
1.児童の放課後を豊かにするための取組について~総合型放課後事業の目指すもの~
Q.私の質問
綱渡りの留守家庭児童会室運営。何をすればよいかも検証できていない放課後子ども教室。民間の力も借りて、まとめてやれば何とかなる、みたいな「総合型」で、理念とする「子どもたちの豊かな放課後」が本当に実現できるのか、私には疑問である。
すべての児童の放課後を豊かにするための取り組みとして、令和5年度から、「総合型放課後事業」を全校で実施すると説明されている。総合型放課後事業は、それぞれの理念に基づく事業目的の達成を前提とする、とのことであるが、そのうち、「留守家庭児童会室」は、なぜ必要で、何をすべきと考えているのか、また、「放課後子ども教室」は、なぜ必要で、何をすべきと考えているのか、伺う。
A.学校教育部長の答弁
まず、「留守家庭児童会室」については、小学校入学以降も高い保育ニーズに対応するため、保育を必要とする児童の生活の場を確保し、保護者が安心して就労できる環境を整備するものである。
また、「放課後子ども教室」については、保護者の就労状況に関わらず、児童の自主性や社会性、創造性などを育み、可能性を広げることができるよう、放課後にすべての児童が安心して自由に過ごせる居場所を確保する事業であり、令和5年度には、すべての小学校で実施できるよう、進めて行く。
Q.私の質問
来週21日に開催予定の総合教育会議においても、「総合型放課後事業の取り組みについて」が案件となっている。総合型放課後事業は、市長部局と教育委員会にまたがる事業であり、具体化に向けては、市長自らの考えやビジョンを、市民や議会に向かって、ご自身の言葉でご説明いただくことがとても重要だと考える。
「ただいま、おかえり」で始まる「留守家庭児童会室」には、共働き世帯が増加し、未就学児の保育サービスの利用が広がったことを踏まえると、今後も、入室児童数の増加傾向が継続することが想定される。事務委任により児童福祉事業も担っておられる教育委員会の担当部長からご答弁いただいたが、この放課後児童健全育成事業である「留守家庭児童会室」の必要性について、市長は、いったい、どのように考えておられるのか、伺う。
A.伏見市長の答弁
「留守家庭児童会室」については、保護者の就業形態の多様化に伴い、小学校入学以降も保育ニーズが高まっている中で、保育を必要とする児童の生活の場を確保し、保護者が安心して就労できる環境を整備するものであり、重要な「子育て支援施策」の一つであると考えている。
※参考(学校教育部長の答弁)
「留守家庭児童会室」については、小学校入学以降も高い保育ニーズに対応するため、保育を必要とする児童の生活の場を確保し、保護者が安心して就労できる環境を整備するものである。
Q.私の質問
担当部長のご答弁に加えて、市長からは、「重要な『子育て支援施策』の一つ」とご答弁いただいたが、今、「重要な『子育て支援施策』である「留守家庭児童会室」事業は、綱渡りの状態である。
安心して子どもを預けることができる環境整備のためには、専用施設の確保が必要であるし、今年度当初、全児童の23.5%、小学1年生でいえば、44.4%が利用しているという社会資源であるのに、必要な支援員数の約3割が欠員(58/194)という状態で、そこを、会計年度任用職員であるサポート員で穴埋めしている。「室長」を担う主任支援員を配置できていない児童会室も2室あった。
新型コロナの感染拡大により、学校の一斉休校という事態となった時に、大変な困難を担いつつも、児童の居場所として大きな役割を果たしてくれたのが留守家庭児童会室であった。
私自身、留守家庭児童会室を利用させていただくことで、3人の子どもを育てながら仕事を続けることができた。
運営を担う職員の数の確保や資質の向上、職責や職務内容に応じた処遇の改善など、これまでの議会においても、さまざまな問題を取り上げてきた。待ったなしの迅速な対応が必要な課題は山積しているが、改善に向けての取り組みはなかなか進んでいない、それが現状である。
「重要な『子育て支援施策』」である留守家庭児童会室の、現在の綱渡り状態の改善や課題解決に努めていただくことを要望しておく。
では、もう一方の「放課後子ども教室」はなぜ必要で、どんなことを提供しないといけないと考えているのか、校庭等の施設開放だけでいいと考えているのか、市長のお考えを伺う。
A.伏見市長の答弁
「放課後子ども教室」については、児童の自主性や社会性、創造性など生きる力を育み、可能性を広げるため、保護者の就労状況に関わらず、放課後にすべての児童が安全に安心して過ごせる居場所を確保する取り組みであり、令和5年度には、「放課後子ども教室」をすべての小学校で実施できるよう進めていく考えである。
※参考(学校教育部長の答弁)
「放課後子ども教室」については、保護者の就労状況に関わらず、児童の自主性や社会性、創造性などを育み、可能性を広げることができるよう、放課後にすべての児童が安心して自由に過ごせる居場所を確保する事業であり、令和5年度には、すべての小学校で実施できるよう、進めて行く。
O.私の意見
担当部長のご答弁に加えて、市長からは、「生きる力」を補ってご答弁いただいた。しかしながら、校庭や図書室を安全・安心に開放さえしておけば、「児童の自主性や社会性、創造性など生きる力を育み、可能性を広げる」ことができるという趣旨を市長が語られたのではないかと心配している。
児童の放課後対策は、「居る場所」さえあればいいというものではない。
「児童の放課後を豊かにする基本計画」の中では、留守家庭児童会室、放課後子ども教室、放課後自習教室、枚方子どもいきいき広場の緊密な連携を踏まえ、すべての児童が豊かな放課後を自ら創造できる環境の整備に努めるとされている。
「留守家庭児童会室」のように、「保護者が安心して働けるよう、児童が放課後を安全・安心に、かつ豊かに過ごす環境を提供し、児童の育成支援や発達保障、子育て支援を行う」といった社会福祉の観点から、事業内容を検討することが必要である。また、「放課後自習教室」のように子どもたちの学びの保障、学力保障の観点から、あるいは、「放課後子ども教室」や「枚方子どもいきいき広場」のように子どもに対する社会教育の観点から、どういった内容を、どのような連携体制で形作り、子どもたちの豊かな放課後を実現するかの検討が大切である。
特に、今、家庭の経済格差が、子どもたちの様々な体験格差に直結している。保護者に経済力があれば、子どもたちは放課後にも様々な体験や学習が可能となり、自らの可能性を広げることもできるが、経済力がなければ厳しいわけである。子どもたちの学力も、体力も、経験も、二極化するといった問題は、格差社会日本の社会問題であると言われている。そのような格差をどう公的な施策でカバーしていくのか、そういった視点も重要だと考える。
繰り返しになるが、「総合型」として実施さえすれば何とかなるというものではない。
それぞれの事業目的を達成するためには何が課題で、その課題解決のために何を行うのか、「総合型」を実施するのであれば、その中でどのように解決されるのか、想定される課題やリスクを丁寧に検討いただくことが必要であると意見しておく。
2020年12月定例月議会で、放課後児童健全育成事業の適正運営について、質問しました。
働く職員の処遇改善を行って必要な人材を確保し、職員の資質向上を図る。こうした留守家庭児童会室をしっかりと運営する体制も十分に作れていないし、職員や保護者との丁寧なコミュニケーションも図れていない、これが現状でした。子どもたちと向き合う職員が安定して働き続けられること、研修等を通じて必要な専門性を高めていくことができることこそが、子どもたちが安全で豊かに放課後を過ごせることにつながるわけです。民間委託は決して万能薬ではありません。まずは、現状の改善にしっかりと向き合うことが求められているのであり、これらの努力を行うこともなく、民間委託を何としてでも進めようとするのは、行政責任の放棄に他ならないことを指摘しました。
2020年9月定例月議会で、子どもにとって豊かな放課後環境の整備について、質問しました。
子どもたちと向き合う職員が安定して働き続けられること、研修等を通じて必要な専門性を高めていくことができることこそが、子どもたちが安全で豊かに放課後を過ごせることにつながります。留守家庭児童会室の運営においても人員確保が困難な状況の中、放課後キッズクラブ事業もあわせて実施する人員を確保できるのだろうかという懸念を伝えるとともに、子どもにとって豊かな放課後環境の整備のためには、国制度も活用しながら、留守家庭児童会室職員の処遇改善を図り、人材を確保するとともに、新たな事業の実施に向けては、現場職員の意見もしっかりと聞きながら、焦ることなく丁寧に進めていただきたいと要望しました。
2020年6月定例月議会で、学校臨時休業中の児童の居場所の運営について、質問しました。
学校の臨時休業中の緊急対応についての検証、学校教育の現場と連携を図りながら運営方法を整理すること等、保育の必要な児童の受け皿である留守家庭児童会室の運営が崩壊しないよう、そこに働く職員が見通しを持って安心して勤務することができるよう、課題の共有や情報の伝達も含め、しっかりとコミュニケーションを図っていただくことを強く要望するとともに、すべての児童の豊かな放課後をめざす取組には期待するけれども、内容も体制もあいまいな全児童対象の放課後児童対策の名目で、「留守家庭児童会室事業」を事実上放棄するなどということは断じて許されることではないと意見しました。
緊急時の対応には、通常どのような整備が行われているかが反映される。児童の保育は社会的課題であることが明らかになったと思います。学校との連携など、緊急時に明らかになった課題については、平時に必要な取り組みに生かされることを願います。2020年8月に開催された児童の放課後対策審議会の報告です。「児童生徒の居場所_検証結果報告書」には、児童の放課後対策審議会の意見も掲載されています。
【参考】
児童の放課後対策審議会
児童の放課後対策の総合的な推進に関する事項について調査審議を行うため、児童の放課後対策審議会が設置されています。
▶ 「児童の放課後を豊かにする基本計画~すべての児童の放課後を豊かにするための取り組みについて~」(2020年3月_枚方市教育委員会)
今年度、11月5日に開催された審議会に提出され総合型放課後事業の取り組みについての資料は下記のとおりです。
▶ 総合型放課後事業の取り組み状況について(2021年11月5日開催_児童の放課後対策審議会資料)
◇新・放課後子ども総合プラン
▶ 「新・放課後子ども総合プラン」について(2018年9月14日、厚生労働省依頼)
▶ 「新・放課後子ども総合プラン」の一層の推進について(2020年3月31日、厚生労働省依頼)
放課後児童クラブは、小学校の余裕教室や児童館などで、共働き家庭等の小学校に就学している児童に放課後等の適切な遊びや生活の場を提供する安全・安心な居場所であり、「新・放課後子ども総合プラン」(2018年9月14日策定)に基づき、放課後児童クラブについて、2021年度末までに約25万人分を整備し、待機児童の解消を目指し、その後も、女性就業率の更なる上昇に対応できるよう整備を行い、2019年度から2023年度までの5年間で約30万人分の整備を図るとされています。
【追記 12月24日】
▶ 2021年放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況(2021年5月1日現在)
厚生労働省は、放課後児童クラブ数や利用登録している児童数(登録児童数)などの状況を把握するための調査を毎年実施しています。2021年の取りまとめが2021年12月24日付で公表されました。